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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2075号 判決

控訴人 高橋輝雄

右訴訟代理人弁護士 山本潔

被控訴人 横川芳三

右訴訟代理人弁護士 佐々木正義

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、第一次的に主文第一項同旨、第二次的に控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(主張)

一  被控訴代理人

本件控訴は、控訴期間経過後になされたものであるから、却下を免れない。すなわち、被控訴人は、原審において、控訴人の住所、居所その他送達をなすべき場所が知れないため、公示送達の申立をし、原審は右申立を許可し、控訴人に対する原判決の送達については、昭和五四年四月一九日公示送達の手続がとられた。そして、控訴人の自認するところによれば、控訴人は、昭和五四年八月二六日原判決を知ったというのであるから、同年九月五日なされた本件控訴は、訴訟行為を追完すべき期間経過後のもので、不適法である。

控訴人の抗弁事実中、訴外鈴木房子が賃借人であったことは認めるが、その余は否認する。

二  控訴代理人

被控訴人は、本件訴提起当時、控訴人の住所が、東京都足立区中央本町二丁目二四番四号渕荘一号室であることを知りながら、訴状には右「二丁目」を「四丁目」と表示し、そのため送達不能となるや、控訴人の住所は不明であるとして公示送達の申立をした結果、これが許され、控訴人に対する訴状副本、口頭弁論期日呼出状及び原判決正本は、公示送達の方法によって送達された。控訴人は、昭和五四年八月二六日訴外太田俊江から、原審相被告有限会社サンワナチュラルフーズに対し送達された本件訴状副本、期日呼出状、原判決正本の交付を受け、同日はじめて、控訴人に対し本件訴が提起されたこと及び原判決の言渡があったことを知った。右のとおり、控訴人は、その責に帰すべからざる事由により、控訴期間を遵守することができなかったのである。

被控訴人の請求原因事実中、原判決添付別紙物件目録記載の建物に対する控訴人の占有が、被控訴人に無断でなされているとの事実を否認し、右建物の一か月の賃料相当額が金五万円であることは争うが、その余は認める。前記有限会社サンワナチュラルフーズは、昭和五二年一月二一日被控訴人の承諾のもとに、賃借人鈴木房子から右建物を転借したものである。

(証拠関係)《省略》

理由

職権をもって本件控訴の適否について考えるに、本件記録によれば、原判決は、昭和五四年四月一九日原裁判所において言渡され、控訴人に対する原判決正本の送達は、裁判官の許可を得て、同日公示送達の方法によってなされたこと、控訴人は、同年九月五日当裁判所に控訴状を提出して控訴を提起したことが認められる。そうとすれば、控訴人に対する右公示送達は、裁判官の許可を得てなされた以上有効であり、その送達の効力は、昭和五四年四月二〇日に生じたというべきであるから、控訴人のした控訴は、控訴期間経過後になされたものであって、不適法である。控訴人は、訴訟行為の追完をいうが、右追完は、不変期間を遵守することができなかった事由の止んだ後一週間内に限り許されるものであるところ、控訴人の右主張によれば、控訴人は、原判決の言渡のあったことを昭和五四年八月二六日に知ったというのであるから、控訴人のいう追完は、期間経過後になされたものであって、許されないものといわなければならない。

よって、本件控訴を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田洋一 裁判官 蓑田速夫 松岡登)

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